とやまらいふ

富山にUターンした82年生まれ男子の富山の魅力発信と古民家改修ブログ

古民家の断熱を考える

さて、前回完成イメージを公開したのですが、どうやって今の案に行き着いたのかをお伝えしようと思います。とは言え、コンセプトや使い勝手、断熱の方法や耐震補強などなど、色んな要素が複雑に絡みあっての今の案です。とても一回では書ききれないので、毎回テーマを持って書いて行こうと思います。

それでは行きます。第1回目は断熱がテーマです。

2020/01/22

服のような断熱

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夏は薄着で、冬は重ね着。

私たち人間には当たり前の事。

高気密高断熱住宅への改修は無理なので、気温に合わせて服を脱ぎ着できるような断熱を目指します。

最近では高気密高断熱住宅なんて良く聞くようになりましたが、高気密高断熱って何が良いのよ?って思われる方もいらっしゃると思います。早い話が室内の熱を逃さない工夫の事で、現在省エネ住宅を作る上で最も支持されている方法です。とは言えこの高気密高断熱と言うのは、最近こそ当たり前ですが、我が家の様な大正時代の建物にはほとんど考えられていない概念です。その為、過去の記事でも触れましたが、我が家には今では当たり前の断熱材は設置されていませんし、床や壁には隙間があって低気密です。と言うわけで断熱をどうするか?と言う問題は古民家改修における優先検討事項になります。

さてここまで読んでこんな疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。

「じゃあ昔はどうやって生活してたの?」

温暖化の影響で、夏は今より気温が低く過ごしやすかったかもしれませんが、冬は今より寒さが厳しかったはずです。

その答えを一言で説明はできませんし、色んな要因が複合的に絡み合っていると思いますが、私は、「庇」と「縁側」にヒントがあると思っています。

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「庇」は説明不要ですね。右図の通り入口や窓の上から跳ねだしている部材が「庇」です。
「縁側」も大丈夫ですね。右図の庇の下にある床が跳ねだしている部分が「縁側」です。

 

何故「庇」と「縁側」なのかと言うと、夏の日影と冬の重ね着をイメージしてもらえると分かりやすいかも知れません。

夏暑ければ日陰に避難しますよね?

つまり夏は日陰を作るために「庇」をいっぱい出して暑さをしのいでいたというわけです。昔はエアコンが無く室内の空気を冷やせなかったし、日影のおかげで涼しい風が抜けていたので、夏の断熱は必要が無かった。というわけです。

一方で冬は寒ければ服をいっぱい着ますよね?

なぜ服をいっぱい着ると暖かいのでしょうか?その答えは服が暖かいから。ではなく、身体から発熱された熱が逃げないから。まさに身体の周りの断熱性能が上がるから、と言うのが答えです。と言う事は家にも重ね着をする様に、冬だけ服を着させてやれば良いわけです。で、その服の役目をしてくれるのが「縁側」だったのではないかと勝手に想像しています。では何故「縁側」が「重ね着」になるのか?という疑問にお答えする為に、少し数式を登場させます。

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なんのこっちゃ分からないですよね。

順々に説明します。まずそもそも「断熱」とは前術した通り熱を逃がさない工夫です。ちょうど図の赤い矢印が、室内から外へ熱が逃げる様子を示しています。で、その逃げていく熱の量の(E)とします。つまり断熱性能を上げるにはこの(E)が小さければ小さいほど断熱性能が上がっていく。という数式です。

というわけで、この数式は

①内外の温度差が小さければ小さいほど(E)は小さいです。

→温度差が無ければ熱の移動が無くなるので比較的イメージしやすいかと思います。

②壁の厚さが厚ければ厚いほど(E)は小さくなります。

→分厚い壁と、薄い壁だと当然薄い方が熱を伝えやすいのでこちらもイメージしやすいと思います。

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③聞きなれない言葉「熱伝導率」が重要です!

→「熱伝導率」というのは物体毎に決められた(測定された)熱の伝わりやすさを示す数値で、代表的な物体の数値は右の表のようになってます。

さてこの表を見てこんなことを思われるかもしれません。

乾燥空気最強じゃね?

その通りで、実は空気は断熱素材としてかなり優秀です。もちろん上を見ればアルゴンガスなどと言った物もありますが、乾燥空気はアルミと比較すると約一万分の一も熱を伝えない物質なのです。と言うわけで「断熱=空気の扱い方」と言っても過言ではありません。防寒着の代表と言えばダウンジャケットなんかが代表ですが、あれもダウン(水鳥の羽毛)の断熱性能が凄いのではなく、ダウンは空気の保持の仕方が抜群に効率的な為に暖かいのです。建築においても巷で流行りの断熱材ネオマフォームも、よく聞くグラスウールなんかも空気の閉じ込め方が違うだけで断熱の主役は空気です!

と言うわけで「縁側」部分に空気を閉じ込める事が、家に「重ね着」をさせる事になるのではないか?縁側部分を空気の部屋にして、断熱の服にしてしまおう。と言うのが今回の断熱コンセプト、「服のような断熱」となるわけです。

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ネオマフォームの熱伝導率は0.02なので、縁側の幅が1メートルだとすると数字上はネオマフォーム約820ミリと同等の性能がある事になります。ただここで断っておくと、断熱は実は奥が深く、先ほどの数式だけでは語れない要素として、気密性や対流などと言った要素が沢山あります。これまた解説するには時間がかかりすぎるので機会があればにしますが、縁側断熱は計算通りの効果はありません。

とはいえ、断熱材に頼るのではなく、平面計画を工夫をしていく事で、冬の暖かさを獲得出来るような計画にしたいと思います。